ついに決着?「ずとてのぺうくろ」の考察

外国に行くと不思議な日本語を見かけることがある。身近な所では台湾のまちなかで見かける「マツサーヅ」やラーメン屋なのに「ウーメン」などが有名であり、これはその単語に似た平仮名やカタカナを使ってしまったことに由来していると思われる。

最近は、パソコンでデータを作成し、そのままのデータで出力して印刷することが多くなったためこのような誤字は少なくなってきた。これら看板が作られた1980年代、90年代、まだパソコンが普及しておらず、また2000年代に作られたとしても、当時パソコンを使わない高齢の経営者が発注した、とすれば、看板業者は手書きで外国の文字(つまりは日本語)が書かれた紙切れを発注者から渡されて、その文字をパソコン内から見つけて入力し、印刷するという工程を経るわけだが、看板業者は日本語に精通している訳ではない為、紙に書かれた見慣れぬ文字をパソコン内の文字を見つけ出し、データを作成する訳であるから、どうしてもこのような「変な日本語」が発生してしまうのは容易に想像できる。また予算の関係上、そして時間の関係上「ネイティブチェック」など行うはずもなく、このような誤りが出来るのだろう。

さて、本題に入るが、先ほど紹介した「マツサーヅ」などはまだ可愛いレベルの誤字で、日本人であれば、パッと見てすぐにその意味を理解することが可能である。しかし、香港には非常に難解な誤字があるのをご存知であろうか。まずはこの画像をご覧いただきたい。

いらつしゃいませ ずとてのぺうくろ

活字にすると意味が更に理解しがたくなるのだが、英語を見ると「Welcome To Man’s Paradise Enjoy Yourself」とあることから、これはどうやら「いらっしゃいませ、男の楽園」を意味していることが分かる。「ずとて」は「おとこ」という平仮名の誤りであることは字の形からして容易に想像がつくが、後ろの「ぺうくろ」は非常に難解である。「楽園」、つまりは「パラダイス」が変形して「ぺうくろ」になったとの説が有力なようだ。この画像のように「ダ」が欠落すれば、「パライス」になる。

しかも看板の古さを鑑みると、看板作成時に発注書に手書きで「いらっしゃいませ おとこのパラダイス」と書こうとした所、日本語のあまり得意でない または できない発注者が翻訳会社からもらった文言を書き写す際に、「ダ」を書くのを忘れて「おとこのパライス」という状態で看板業者にその発注書を渡したとしたら、こうなるのは必然であろうし、こういうミスは当時であれば起こりうることなので、「パラ(ダ)イス」説が有力だと言われるゆえんなのかもしれない。

また別の説として「パラしろ」という説もある。
これは「パラダイス+城」を組み合わせた「男のパラダイス」とも「男の城」とも読み取る事のできるダブルミーニングだったというものである。

大変面白い説であるが、私は「パライス」説を強く推す。なぜなら、手書きの日本語が書かれた紙切れを印刷業者が受け取ってパソコン内で文字起こしをする際に、参照するのが「五十音表」であろう。且つ、見ていくのは「あいうえお、アイウエオ」からであろうから、仮に「おとこのパライス」と間違って書かれた紙切れ、かつ図のようにかなりの達筆?で書かれた文字で書かれた紙切れを渡されれば、あいうえおかきく、と順番に見ていくであろうから、最初に「イ」に似た文字は「く」となり、「ス」に関しても平仮名→片仮名の順で探していくであろうから、カタカナの「ス」にたどり着く前に平仮名の「ろ」が同一文字と誤認識したと考えられる。

しかし、そうすると、「おとこ」の「お」や「こ」、「パ」は五十音順では正しい文字の方が先だぞ!というツッコミがあると思うが、これらはネイティブの日本人ですら書き手の癖によっては「て」「ペ」に見えなくもない場合があるので、触れないでおく。ちなみに誤植で有名なものとしては「インド人を右に」がある。
※「お」に関してはこれはまったくの謎である。発注者はよっぽどの”達筆”だったに違いない。苦しい言い訳ですまぬ

なお、類似の看板が多いのは、恐らくどこかの有名店が誤った表記で看板を作成してしまい、その店に倣って同じ文言を他のお店も使用したからだと思われる。また、日本人から誤りを指摘されたとしても「意味は通じる?」→日本人「うん、何となく通じるよ」という回答であれば、「変な意味でもないのだから、わざわざ手直ししなくてもいいや」という考え方で今に至るまで「変な日本語看板」として存在しているのだろう。

最後に「パラダイス」の「ダ」欠落説が濃厚だが、ここでもう一つ新説として

「宮殿」や「城」を意味するフランス語の「Palais」をそのままローマ字読みしたパターン「パライス」もあるのではないかという説

看板を見ると多くの夜のお店の名前が「〇〇城」というものだからだ。フランス語を使うことにより、Castleよりも更に豪華な雰囲気を醸し出すことができると予想したのだが、よくよく考えてみると、フランス語では最後の子音は読まないので「パレ」となるし、香港と言えば英語がメインの土地柄、わざわざフランス語を使うこともないので、この説である可能性は低い。

いずれにしても結局決着がつかなかったのは申し訳ないが、「パラダイス」の「ダ」欠落説が濃厚だということ、看板作成の「手書き文字をデジタル化する」という過程において日本語を全く理解していない人が介入する事により誤植が発生しているということ、ご理解いただければ幸いである。

2022年2月22日 編集(八度妖)

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